もちはだ手袋
「世界中から寒いをなくしたい」
そんな思いを掲げて半世紀もの間、「起毛」という技術一筋で暖かさを追求した兵庫・加古川の老舗メーカーとの必然的な出会いから、手袋づくりはスタートしました。扱いの難しい素材にも「面白い」と楽しみながら一緒に挑戦していただいた東かがわの手袋メーカーの協力もあり完成した、ものづくりへの情熱とお客様目線のぬくもりを感じられる、あったか手袋です。
1.取り組みのキッカケ
もちはだとの出会い
これといった明確なきっかけはなんだったかなと思い出しつつ、私が“もちはだ”を初めて知ったのは、今から6年前の2014年の冬のことでした。その頃は東京で働いており、香川で手袋の仕事をすることも決まっていないし、もちろんテトもまだ生まれていません。お笑い芸人さんがテレビでもちはだという、段違いにあたたかい肌着があるというのを紹介されているのを見て、離れて暮らす香川の両親に贈ろうとWEBサイトを訪れました。
厚みや、形など、種類が豊富で選ぶのに迷い、思い切ってサイトから質問。普段の両親の服装や、ライフスタイル、使用シーンなどを伝えつつ、おすすめを聞いたところ、ひとつひとつの質問にとても丁寧に答えて頂いたことを覚えています。
そんなこんなで選んだ肌着を両親に贈ると、史上最高にあったかい、とそれはもう大絶賛で。とても喜んでもらいました。
そこから2年後にテトの仕事を始めて、いろんな人や産地のものづくりにも出会う中で、あのとき買ったもちはだというブランドは、兵庫県の加古川にあるワシオという肌着メーカーが作っているブランドであることを知ったり、ワシオの3代目である鷲尾岳さんが同世代で、家業の継業において、アグレッシブなチャレンジをたくさんされていることなどを知ったりしました。
実は同じ雑誌で取材を頂いていたり、イベントでお会いすることがあったり、共通の知人が増えていったりと、そんな距離感の期間が1年以上あったかなと思います。

もちはだ手袋作れたらいいなあ~、絶対あったかいよね、と社内ではよく口にしていたのですが、2019年10月に岳さんとトークイベントでご一緒したときに、もちはだの手袋つくりませんか?とついに声をかけました。
それをきっかけに、いいですね!やりましょう~と回答をもらって、会社に帰ったら即、生地サンプルが届いているという、そんなスタートでした。

2.開発中の話
~サングローブ編~
困難も楽しめる前向きなものづくり
手袋づくりにご協力いただいたのはスポーツやアウトドアの手袋づくりを得意とされる、サングローブさんです。
(サングローブさんの詳しいご紹介はこちら→)
企画を進め始めてから知ったのは、実はワシオさんの方で、もちはだブランドとして、手袋を作ろうと過去にトライをされていたこともあったようなのですが、生地の伸縮性が良すぎることがネックになって、なかなか商品化には至らず、とん挫されていた経緯がありました。
手袋の縫製は曲線が多いので、まったく伸びない生地というのも難しく、ある程度伸縮性がないと縫いづらいという特徴があるのですが、伸びすぎて難しい、というのも珍しいケース。
すごく伸びる生地を含め、いろんな素材を扱うスポーツの分野を得意とするサングローブさんなら打開策が見つかるのでは?と思い、持ち込みました。かなりストレッチ性の高い生地を見ながら、どうかな~と言いつつ、ひとまず1stサンプルを作ってみよう!となりました。
そこでできたサンプルもやっぱり、生地の伸縮性がよすぎるがゆえに、縫製している最中に次第に伸びていってしまい、抜いた型よりも2倍近く大きくなってしまうし、特に縫製が難しい指先は蛇行してしまうという結果に。
もちろん、ひとつのサンプルを形にするだけであれば、慎重に、ゆっくり進めればできないことではありません。
しかし、より多くの人にこの手袋を届けられるように、と思ったときには、やはりある程度の数量を一気に仕上げていく量産スピードも意識しながら、完成時にばらつきや不良が出ないことを計算した上で、仕様を考えていく必要があるのです。

伸びない生地と組み合わせる、もちはだを裏地に使う、などちょっと複雑になる構造も頭をよぎったのですが、もちはだブランドの初めての手袋なので、シンプルで、見た目にもすっと入ってくるような“もちはだ”らしさを残せる形がいいなあ、どうしようかな・・・と考えを巡らせていました。
そんなとき、担当の内海さんの口から出たのは、
“それにしても、この生地めっちゃおもろいなあ。かなり特長ある生地やけん、なんとか形にできたらなあ!”という言葉。
正直、少し険しい道のりになるかな・・・と思っていた私にとって、この言葉はすごく印象に残っていて、難しそうだなというそんな状況にも、楽しみながら向きあっている様子を見て、よっしゃ、粘ろう。と思えた瞬間でした。そこからは、手袋が縫えるような生地の改良のご相談がはじまりました。

2.開発中の話
~ワシオ編~
こだわりの伝統製法×お客様目線
まず簡単にもちはだをご紹介。
もちはだというのは、ワシオさんが保有する特許取得技術で編み上げた生地を使った肌着のブランドです。1970年に、靴下の産地である兵庫県の加古川市で生まれ、2020年にはブランド創立50周年を迎えられた、超ロングセラーブランド。特許技術によって生み出される独自の起毛が圧倒的な保温力につながっています。
寒さが苦手な方や冷え性の方の日常生活に寄り添うのはもちろん、屋外で長時間過ごすバイカーや漁師、釣り人、さらには南極冒険家の方のようなプロや本格派の方々からも支持されています。ここでしか生み出すことのできないもちはだの秘密とは? “ワシオのものづくり”を学び、より深く知るために、サングローブさんと一緒に加古川の工場見学へ行きました。

ワシオさんがある加古川の志方町は日本有数の靴下の生産地。もともと農業の閑散期のビジネスとして始まったものづくりが周辺地域一帯に広まり産業となった成り立ちがあります。ワシオさんはそこで靴下の卸問屋として、地域で作られる靴下を販売されていました。そんな中、近所で靴下製造をされていた方が、他にはない起毛技術を思いついたことをきっかけに、共同で開発に取り組むことになり、誕生したのがもちはだでした。
段違いな暖かさを生む技術を核としつつ、50年間少しずつ変化してきた様子が窺える商品の姿を横目に、会社の歴史や、もちはだの特異性など、わかりやすく丁寧に説明して頂きました。自社の強みを明確に、力強く語れることの大切さを感じながら、一同メモを取りながら学んだ時間です。

もちはだはパイル起毛と呼ばれる素材です。一般的なパイル起毛素材というのは、編んだあとに掻きだして起毛をつくりますが、もちはだの生地は編みながら同時に起毛をかけていくという特長があります。この、編みながら同時に起毛をかけることができる独自の手法によって、ひとつひとつのループ構造を破壊することなく、ループ部分と起毛部分に二重で空気層を作ることができます。
機能素材としてよく聞く、発熱というアプローチではなく、体温によってあたためられた空気の層で保温するというアプローチ。快適温度でふんわりと包み込まれるような暖かさが特長です。

この特殊な起毛生地を生み出す機械は、ワシオさんにしか存在しないもの。
実は、もちはだが発明された50年前と同じ機械を、自分たちの手で改造して、今も使い続けています。機械の生産ももはやされておらず、改造時に使う部品があるわけでもありません。そのため改造の部品は職人さんたちの手作りです。部品を手作りする工房もあり、普段やわらかなニット生地を作る職人さん自ら、火花を散らして金属を削ったり、溶接したりと、機械まで手作りにこだわっています。もちはだが唯一無二である理由は、それを生み出す機械も唯一無二であるからなのです。

そんな背景から生まれてくるもちはだの生地。包み込まれるようなその暖かさに加えてもう一つの最大の特長は、伸びに伸びるその伸縮性。ウエアとしての着用時、ひじやひざの曲げ伸ばしはもちろん、ちょっとした体の動きにも追随して、2WAYどころか4WAYに伸縮するという特性が。これがまたすごくいい特長なのですが、手袋を縫う上では、この伸縮性の壁が立ちはだかり、縦伸びしない生地を作ってほしいとリクエストしました。
もちはだ二大特長ともいえるくらいの特性の真逆を依頼するわけですから、最初は困らせてしまったのは言うまでもありません。それでも、これも幅を広げる新しいチャレンジだと言って、取り組んで頂きました。

その日の気温や湿度が違うだけで仕上がりに影響を及ぼすような繊細なニットづくりだからこそ、相当な試行錯誤があったに違いありません。
生地サンプルを作り、手袋の形にしてみて、もう少し、あと少しと調整を繰り返しました。同じ糸でも、染める色によって糸の硬さに微妙に差が出てしまうため、最終的には、色によって糸の種類と混率を変えるという細かな調整の末、生地が完成。着地点が見えたかと思ったときにも、今の生地サンプルよりも、より良い生地ができたのでこれでやってみてほしい、と納得のいく仕上がりまでこだわり抜く。そんなときにも、なぜここを調整したいか、説明をくださるのですが、お客様にこう感じてほしい、こう使ってほしいから、とお客様目線の内容がとにかく多いのも印象的でした。

聞いてみると、もちはだブランドは、実際のユーザーであるお客様からのフィードバックがとても多いそうです。こんなシーンで使ってよかった、もちはだのおかげで寒さが苦手じゃなくなった、ここがもう少しこうだと嬉しい、こんな商品があれば、などなど。
“お客さんとの距離感が近いのもうちの特長かなと思います。いいアイディアは取り入れさせてもらって、開発に反映されるので、お客さんもつい言いたくなるんでしょうね”と笑うのは、岳さんのお母さんであり、通販部を取りまとめる光さん。
50年来の、昔ながらの製法を守りながらも、そういったひとつひとつの声とも真摯に向き合い、開発に反映をされており、よりあたたかく、より心地よい着心地を目指してアップデートをする姿勢をとても大切にされているそうです。
そんな姿勢の中に見える、守るべきこだわりと、柔軟性を持たせる部分のバランスこそ、ロングセラーブランドたる所以であり、人気の秘訣なのかなと、たくさんの学びが得られました。
3.できあがり
ふんわりと包み込まれるような感覚
生地の改良、手袋の試作を何度も重ねてようやく完成しました。
生地を縫製して作る手袋というのは、縫い代が手に直接触れます。
だからこそ、裏起毛の心地よさを肌で直接感じられるわけですが、生地が厚くなるとその分、縫い代の存在感も同時に感じてしまうようになってしまいます。
もちはだ手袋第一弾は、やはり、もちはだ生地の裏起毛の心地よさを、ふわふわの起毛に包まれるような感覚を感じられるようにできればと、縫製する箇所が極力少ないパターンであるガンカットを採用しました。指や手全体がふんわりと包み込まれるような感覚で手を入れてもらえます。

日常で、幅広いスタイルに合わせてもらえるよう、シンプルかつベーシックなデザインです。カラーはブラックとグレー。
手首部分もあたたかくなるよう、少し長めの丈。もちはだのあたたかさが何よりの特長ですが、スマホ対応や、スマホを持っているときにするっと滑って落とさないように手の平にすべりどめなどの機能がちょこっとプラスされているのもおすすめポイントです。
もちはだの長年のファンの方々にも、もちはだを知らない方、これからファンになる方々にも、ぜひ手に取っていただきたいです。

4.今回ご協力いただいた方々
鷲尾 光さん(ワシオ株式会社)
鷲尾 岳さん(ワシオ株式会社)
内海 祐作さん(サングローブ株式会社)
河合 輝さん(サングローブ株式会社)
ほか